山彦よ響け

山とVしかやることがない人の日記

称名川 ザクロ谷(2日目・2021年8月29日)

朝、4時に起床し、もそもそとツェルトの外に出る。この作業だけで腰に痛みが走る。
回復力には自信がある方だが、 どうやら一晩では昨日転んだときの打撲は治らなかったようだ。


この牛の首からすぐに登山道にも出れるので、 ここが普通の沢だったらもう帰っていただろう。でもやっぱり、 ここは一気に抜けてしまいたい。 ザクロをまた今度にはしたくない。


朝食とともにナロンエースを飲み、準備をすませて出発する。
ナロンエースはすごい。飲んですぐに痛みがなくなってきた。 しかし残りはあと一粒…使い所を考えなくては…


出発してすぐに手まり滝が現れる。 まぁ巻くならここしかないよね、と右岸を少し上がると、 トラロープがあった。やけに親切だ。 そのまま尾根に乗る勢いで大きく巻いていくと、 赤テープにぶつかった。これまた親切だ。


f:id:yamabiko222:20210909011742j:image

手まり滝


そのまま平らな藪を少し進んで、支流にぶつかる所で右に折れる。 すんなりと本流に降りることができた。
さぁ、またゴルジュが始まる。
ウエットスーツを着て、進んでいく。


何個か?滝を越えると、(元)口なしの釜が現れた。 今ではドバドバと元気に水を吐き出している。
フリーでいく前に、すぐにハンマー投げを試してみることにした。
今回、You Tubeのザクロ谷の動画に触発されて、 ハンマー投げ用の重い鈎を持ってきていた。 これがすごい引っかかりそうな形状をしている…


f:id:yamabiko222:20210909011837j:image

鈎。400gでちょっと重い…


f:id:yamabiko222:20210909011944j:image

元・口なしの釜


口なしの釜の滝は2段になっているので、 上まで一気にロープを渡そうと投げる。が、 上にはかからず、代わりに一段上の釜の底に引っかかった。 リトライすることも出来ないので、 このままロープを引っ張り進む。
まずはヨッシーさんがいくが、 ハンドアッセンダーを掴んでも水流が強く、 なかなか上がれないみたい。
仕方ない、僕がボルダーで鍛えたムーブで越えるか…! とトライした瞬間、腰に激痛走る…!

わかってはいたが、 ハードムーブには耐えられなかった。我慢すればなんとかなる、 と思っていたが、痛みで一瞬動きが止まってしまう。
ダメそうっす……と戻ろうとすると、 ヨッシーさんがショルダーの土台になりに泳いで来てくれた。 完全に乗るわけにはいかないので、 右足を釜に差してヒールをかけ、 左足でヨッシーさんを軽く蹴って勢いで越えた。


この後はほとんどの滝をヨッシーさんが突破していった。左にハーケン残置、 右にキレイめなリングボルトが2個打たれた滝があったので、 これはアブミで越えた。(F23?24?)


f:id:yamabiko222:20210909012140j:image
左岸に真新しいピンが見える


そしてこれもザクロの代名詞、F25が出てきた。
滑りそうないやらしい巻きルートである。
少し高い位置にリングボルトが見えるが、 ちょっと滝の水流沿いに一段上がれば、すぐ届きそうじゃないか、 とヨッシーさんに行ってもらう。
少し滑りそうだが、 取り付きから二歩ほどでリングボルトに届いた。


f:id:yamabiko222:20210909012230j:image

F25の本流を一段上がる


ここで友達は三段人間梯子をやっていたけど、 なんでそんなことしたんだろう… 今と違って水流沿いに上がれなかったのかな… それともただやりたかっただけなのかな…なんて思いもしたが、 とりあえず一安心なので、お助け紐をかけて休憩することにした。


青空が広がり、太陽の日差しも届いて快適だ。
休んだ後、ヨッシーさんリードで登ってもらった。 ボサに埋もれてしまっているが、リングボルトの残置が結構ある。 それでも滑りそうないやらしい斜面なので大変そうだ。


f:id:yamabiko222:20210909012417j:image

F25の巻き


進みはじわじわだし、ビレイもつらくはないので結構暇だ。

「ひよってるやつ、いる!?いねーよなぁ!」 と見たことのないアニメのモノマネの練習をしながらビレイをしていると、上からコールがかかった。一個荷物を上げてもらい、 ユマーリングで一気にあがる。
確かに傾斜が急になるあたりとか、 リードは大変そうな気がした。
さてここからリード交代してトラバース。 上に逃げすぎたという記録も見たので、 どんな悪いのかと身構える。 ちょっと上がったところの岩の基部のあたりなら易しいんじゃないかと話し合い、まずは少し上がった。 そこからトラバースしようとするルートを見るが、なんか、 踏み跡というか、しっかり歩けそうな感じだった…

3分くらいでトラバースして、ヨッシーさんを呼んだ後、 残置スリングがあったので懸垂して降りた。 このまま灌木を掴んで降りることも出来たと思う。


無事F25も終わり、次はソーメン滝。
ここまで来ると僕にリードをする意欲はほとんどない。
自然とヨッシーさんが登る準備をして、左からアブミを交えて越えていった。


f:id:yamabiko222:20210909012616j:image

ソーメン滝


次の小滝は、左がホールドあるけど抜けが悪そうだなぁ、 と見ていると、ヨッシーさんが悪そうな右から越えていった。 絶好調である。


f:id:yamabiko222:20210909012658j:image

左からユマールしたので難しさはわからない


進んで出てきたのは、左岸に残置スリングが垂れているのが見えたので、 記録で見たトラバースをして越える滝だろう。 しかし水量の少なさがなせる技か、 水流近くにジャンプして取り付いたら、普通に登ることができた。


f:id:yamabiko222:20210909012752j:image

上に残置スリングが見えるが、そこに行くほうが怖そうだった


このままF34までは何も問題ないか、と思われたが、 F34の手前の滝が手こずった。
ヨッシーさんの遠投力によりハンマー投げには成功したが、 そのロープを使っても直撃する水流を越えることができない。 ヨッシーさんのトライが厳しそうだったので自分もトライするが、 スタンスがなくて上がれない。
ここでダメでした〜と泳いで戻っていると、 ロープが足に絡まってしまった。 わたわたとカラビナを外したりして解いていると、 今度はマイクロトラクションがついた環付きを落としてしまった。
どうしよう…そんなに深くはなく、見えてはいるけれど、 僕はコンタクトで水の中で目を開けていられるかわからない… それに潜るのは苦手だ…
ちょろっとトライするがダメで、ヨッシーさんに回収を懇願した。
ライジャケを脱いで、トライする…すると見事! 拾ってきてくれた!流石です!ありがとうございます!
全身頭から浸ったせいか、ガタガタと震えている。すみませんね、 代わりにルート工作しますわ。


いろいろ考えたが、結局は左岸からの、これいけんのか? っていうへつりで突破した。なんとかなるもんだ。


そしてF34。

やっとチョンボ棒が役に立つときがきた。 水に軽く揺られながら、 チョンボ棒につけたヌンチャクを最初のハーケンにクリップする。
そのまま二手アブミの架替えで、 今にも折れそうなひん曲がったリングボルトにアブミをかける。 なるほど確かに、ここから一歩分、残置のブランクがある。
フリーは怖かったので、 少し下がってしまうがなんとかペッカーを打ち込み、 もう一手アブミをかける。 そのまま続く残置に架替えていき突破することができた。


f:id:yamabiko222:20210909012858j:image

F34

 

すぐに支点工作をしなければ、と急ぐがいいクラックはない。岩はすぐに割れてしまい、いいリスも見つからない。
2日目に急に顕著になってきたが、ヌメリが多くなり、 そして岩の脆さが目立ってきた。 試しにジャンピングを使えばすぐに穴が開くし、 岩を適当にハンマーで叩けばボロボロと崩れた。


うろうろしていると、ヨッシーさんが「上の木は?」と叫んでいる。 見ると少し高いが支点に良さそうな木で、 なんとかそこにロープをフィックスした。
もうここから僕に出来ることはあまりない。 ヨッシーさんがなんとか全てのアブミを回収できるかどうかを見守るだけ。


ここぞとばかりに行動食を食べる。 柿の種を食べながらユマールするヨッシーさんを見守る 。やはりペッカーのところが少し下がったトラバースになるので、 その前のアブミをどうやって外すのか難儀していた。 セルフの長さを調節したりして、 なんとか届いてアブミを外すことができ、 無事全てを回収して上がってきた。 正直リードより大変そうでした。ありがとうございます。


これで全ての核心らしい滝は終わった…もうヘロヘロだ。しかしザクロはまだ続く。F35以降は、 だいたいヨッシーさんのリードで進む。 もうユマールしかしたくない。腰の痛みは何故かあまり感じない。それより疲れた…


f:id:yamabiko222:20210909013015j:image


f:id:yamabiko222:20210909013047j:image

普段は容易に越えられそうだが、疲れて勢いがない


f:id:yamabiko222:20210909013158j:image

穏やかになってもなかなか終わらない


時間がないので急ぎながらも、 滝の前ではロープを用意するだけ用意して、ヨッシーさんのリードを待つ。 そんな感じで進んでいくと、ようやく最後のF40が現れた。


f:id:yamabiko222:20210909013421j:image

F40

ここはハンマー投げを多くのパーティが失敗しているところだ。 僕は朝からハンマー投げをすると腰が痛んでできない。 ヨッシーさんに聞くと「疲れてもうできない」ようなので、 試すことなく巻きに切り替えた。 投げる場所も体勢悪そうなとこだしね。


これで最後だと気合を入れ、空荷でリードする。一番悪いな、ってところでは新しそうなリングボルトがあり、無事に越えて灌木まで上がれた。ここで早くしないと日が暮れる、との焦りからか、そのままロープを引いて荷物を上げようとする。 案の定、藪に引っかかって荷物が上がらない。 結局ヨッシーさんに荷物を小突きながら上がってもらったが、 ここは懸垂して荷物持って登り返すべきだった。
時間をかけていると、 ヨッシーさんが上に上がる頃には日が暮れてしまった。 後は巻き降りるだけなのに…なんてことだ…
しかしまぁ、もう最後の滝の上にはいるし、なんとかなるだろう。 ヨッシーさんのヘッデンが見つからないという一幕はあったが( 普通に見つかった)、ヘッデンでもわかる、それっぽい尾根から懸垂なしで本流に降り立った。


f:id:yamabiko222:20210909013502j:image

おぉ…日が暮れた…

 

穏やかな川が流れている。ゴルジュは終わったのだ。あとはもう、登山道にぶつかるまでこの河原を歩くだけだ。

少し休んでから進むと、トラロープが見えてきて、無事、登山道に合流した。

長かった…もうヘロヘロだ。

しかしまだまだアドレナリンが出ているのか、高揚感はおさまらない。

お互いの健闘を称え合い、握手を交わした。

本当にお疲れ様でした。

ウェットスーツを脱いで、歩きやすい登山道を進み始める。

 

眼下にまばゆく光る立山の町は、とても綺麗だった。


f:id:yamabiko222:20210909013752j:image

立山の町が明るく見える

 

大日平山荘で記念写真をパシャリ。

登山口に着き、桂台ゲートまでの車道は本当に長く感じられた。


f:id:yamabiko222:20210909013905j:image

桂台ゲートに戻ってきた

 

不安や焦りはたくさんあったけど、そのぶん無事に終われた安堵はとても大きい。

時間がかかりすぎて、自分たちの沢登りの下手さが身にしみたが、それも含めていい思い出だ。

 

自分たちのできる精一杯で、一つの夢が叶ったことが、ただ、嬉しい。

 

[行動記録]

1日目・5:40桂台ゲート出発〜6:50雑穀谷7:15〜8:45ザクロ谷出合9:20〜11:45 F3〜13:45 F4上〜17:20牛の首

 

2日目・5:40牛の首〜6:25手まり滝高巻き終了〜9:00 F25 9:45〜11:30ソーメン滝〜15:00 F34〜18:15 F40〜19:40登山道〜20:10大日平山荘〜21:50大日岳登山口〜22:50桂台ゲート

 


f:id:yamabiko222:20210909015607j:image

2日目は14時間かけて2kmも進んだ