NZ アスパイアリングで沢登り (ワイパラ川とビナクル(沢)と氷河とアスパイアリング 6~10日目)
6日目(2018年3月10日)
前日の話し合いの結果、空身で氷河湖まで往復し、ビナクルを遡行しようという話になった。とりあえず皆、氷河湖は見てみたかったのだ。
空荷で氷河湖に向かう。荷物はないのに積もった疲労か、体は重い。そんなにかかるとは思っていないけれど、何も面倒なことはないといいけれど…
と期待通り、特に難しいところはなく、無事に氷河湖に到着した。
ワイパラ川をツメた先の氷河湖。緑の尾根の向こう、壁の脇にガレガレの沢、ビッグネルがある
氷河湖は思ったよりも小さかったが、周りには絶壁、何段にもなる長い滝、そこに覆いかぶさるような氷河と、迫力あるものだった。
べったりと氷河が張り付く
確かにビッグネルを遡行するのは難しそう、ということも確認して、すぐにもどった。
先を急がないといけない。
ワイパラ川方面の氷河湖
今日は7時半に行動開始したが、ビナクル遡上開始は11時になった。ちょっと今日中にコリントッドハットに着くのか…?と不安になる。皆の口数も心なしか少ない。
しかしビナクルは最初の200mは時間がかかったものの、そこからは滝も適度に登れて標高をあげてくれる、気持ちのいい沢だった。この荷物での普通の沢登りはかなり疲れるものだったけど…
ようやくよくある沢登りといった感じだ
1000m の二俣を過ぎたさきで、水量は多くないが緩やかに流れる滝が出てきた。遠めから見た感じだと、左岸のルンゼは藪に覆われかなり上まで続いている。しかし右岸の壁は緩やかでかなり上までノーロープで登れそう。迷ったが、 とりあえず一段右岸を登ってもまだ左岸に移れそう、ということで右岸を一段登る。上を見上げると、おや、行けそうだ。流れでそのまま右岸を登り続けた。結構上に上がった先でも水流を横切ることができ る、きもちのいい所だ。
1000m二俣を過ぎた所の滝
重い荷物がこたえる
ここでまた二俣になり、どちらに行くか選択を迫られる。右はとりあえずコルまでは快適に登れそう。左も見えるところまでは登れそうだが、その先がわからない。地形図を見てもどっちもどうなっているかは予想できなかった。結局、コルまで上がった方が安全そうだろう、ということでそちらを上がった。
コルに上がると氷河湖から見えた氷河があった
コルに乗って見上げると、そこには緩やかながら傾斜がある、草が付いたスラブ状の岩壁が広がっていた。とりあえずなんとなるだろう、 ロープもあるし、と信じて進む。
傾斜は緩やかには見える
意外と登りやすく、そのまま二俣の左を登ったら来たであろう本流にぶつかった。このころには岩と水だけしかないような景観で、しかし傾斜は適度に緩く、 非常に美しかった。どうやらこの沢は登れる沢で、なおかつ当たりの沢だったようだ。景色を楽しみながら、そしてもう難所は何もないことを期待しながら進むと、1600mの緩い地帯に出た。
意外と登れる
上まで続く水流が見えた!
振り返るといい景色
よかった…終わった…あとは氷河を歩くだけ…と安心した。しかし氷河は想像していたのっぺりと広がるものではなく、ギザギザズタズタに広がるものだった。これは確実にアイゼンを履く必要がある。急いで冬靴に履き替える。 同じ活動で沢靴から冬靴に変えたのはこれが人生初だ。
氷河は分厚そう
沢靴からアイゼンがつく冬靴に履き替える
氷河は当たり前だが「氷」である。雪とは少々感じが違って戸惑った。しかもここはナイフリッジのあみだくじのような氷河だ。もし足を滑らせたらクレバスにまっ逆さま。
あみだくじナイフリッジ
少し進んで、振り返るとまだO部さんがアイゼンをなんやらしている。軽量化のため、オモチャみたいな4本か6本爪アイゼンだったうえに、うまくつかないようだ。
まぁO部さんはなんにでも対処出来ると思うので自分のことに集中する。
保坂が先導してくれてなんとか越えられた。かなり慎重になってしまった。
もしこのクレバスが、何かの気まぐれで2mぐらい切れていたらどうなったのだろう。 誰かが決死の大ジャンプをしたのだろうか。 その後はスクリューもないのでビレイも出来ず、 皆がジャンプするのだろうか。しなくてすんで本当によかった。
あみだを外してはいけない…
今度こそあとはもう小屋に行くだけ…と思ったが、今度は小屋までのルートがわからない。小屋は見えたが、岩壁と、繋がっているかわからない氷河に囲まれ取りつけない。
日も暮れてきそうでとても焦る。時刻はもう19時だ。
少し岩壁を回り込んでいると、ここはたぶん繋がっているだろうという氷河を見つけた。
僕のアイゼンでもいけるのこれ?という感じなので、当然O部さんのアイゼンでは無理そう。
するとO部さんは「俺は岩壁のほう登るわ」、と言った。確かにそのアイゼンならそれしかなさそう。ただ岩も上まで繋がっているのかはよく見えない。
僕はそっちの岩は怖かったので、小屋で合流しましょう、ということになった。
まぁO部さんならなんとでもなるでしょう。それより自分の心配だ。
ホサカも氷河ルートを登ることにしたようなので、2人で登る。が、繰り返すがスクリューはないのでロープは出せない。
ホサカが登り、ただそれについていった。
ちょっと傾斜が強くないですか?雪渓じゃなく氷ですよ?
後半になるにつれて、ちょっと傾斜が厳しくなってきた。この荷物、さらには平ヅメアイゼン、 手には沢バイル一本。何故ロープが垂れていないのか不思議な状況だ 。ここは雪の斜面ではなく、氷河。滑ったら50mくらいの氷の滑り台だ。
重い荷物が背中を引く。刺さらないバイル、刺さらないアイゼンで命からがら抜けて、やっと小屋にたどり着いた。 この山で一番怖かったかもしれない。
画像下にちょっと見える穴がアイゼンの跡
小屋にはガイドパーティがいたが、自分らは3人で4つのベッドも使うことができ、 快適に過ごせた。夜も暖かく、逆に暑くて靴下とズボンを脱いでシュラフを半身に被るぐらいのほどだった。
19:45小屋到着。まだ日は暮れなかった。
ーーーーーー
「天気が悪くて停滞にならないかな…」
「僕も停滞したいですね…」
そんな会話をしていても、明日の天気予報は好天を告げ、どうやら行動の他なさそうだ。
噂によると山頂までは往復8時間、ならば遅くに起きても大丈夫だろう、とも思うが、一応は海外の雪稜だ。何が起きるかわからない。
起床は5時にしよう、いや5時半にしようなどと会話をしていたら、他のパーティが3時起き4時出発すると言っている。なので僕たちも少しは早く、5時起きにしようとあいなった。
7日目(2018年3月11日)
流石のニュージーでも6時過ぎではまだ暗い。ヘッデンを着けて行動開始。
自分とホサカのヘッデンの明かりは暗く、目印となるケルンを探せるかはO部さん次第だ。「ケルン探す気ないなその明かり…」と言われる。
いや……すみません。
しかし踏み跡はそれほど複雑ではなく、すんなりと進ませてくれる。
夜も明けてきた。久しぶりに稜線から見る朝焼けは美しい。南島でも高い方であろう峰々が見渡せ、気分もあがってきた。
順調に歩を進めていると懸垂地点が出てくる。これはクライムダウンは怖そうだ。素直に懸垂する。
その後は稜線上を歩いたり、巻いたりしながら進む。基本的にはケルンや支点があるのでわかりやすい。問題なく進むと頂上直下まで来る。ここまでくると流石に寒い。岩陰に隠れて風を凌いで休憩する。
岩稜にはほとんど雪は乗っていない
地面も所々凍っているが、しかし後は単調な坂を登るだけのようだ。
山頂付近は雪に覆われていた。しかし雪はこの山頂周辺数mしかなく、それにステップが刻まれている。どうやら本当にアイゼンは必要なかったようだ。
無事、登頂。写真を数枚撮って、そそくさと引き返す。ここは寒すぎる。
長い沢のツメだった
下山は楽だが、行きより道がわかりにくく感じる。何度か間違えてしまったが、とりあえずはまた懸垂したポイントに戻ってこれた。ここで念のためロープを出すが、僕の靴はなんと下山開始してすぐに靴底が取れてしまった。
古い靴を持ってくるんじゃなかったなぁ…
なのでリードじゃんけんには加わらず。やったぜ。
O部さんに行ってもらったが、ロープが無くてもまあ問題はないかなというくらいだった。
あとは下るだけ…今日は行動をいつもより早く終えて長い休憩が取れそうだ。といっても9時間は行動したんだけど。
途中で懸垂下降した
その後は無事にハットに戻る。
やはりハットは快適だ…もう登らなくいいというのが本当に嬉しいな…
ハットからもアスパイアリングがよう見える
ハットではワイパラ川から来たんだよ~なんて話をして、 早々に眠りについた。
8日目(2018年3月12日)
今日下るガイドパーティ二人組と同じ6時半に起床。 ゆっくり準備していると、話しかけてきて色んな食料をくれた。 どうやらガイド会社がたくさんデポしていくらしく、 それらはガイド用のロッカーにしまうが、 誰が食べても同じだからと言って僕たちにも分けてくれた。
おかげで今日の朝食は3人で鶏肉400g入りチキンスープ、チーズ& バタートッピングラザニアパスタ250g、フルグラ&ヨーグルト&桃の缶詰、チョリソ300g、チョコレート、 トレイルミックス、ゼリーとかなり豪勢なものとなった。おかげで大量の食料を消費するため、起きてから出発まで3時間半かかった。
食べる。ひたすら食べる
下りはまず尾根を岩づたいに降りるが、 これはすぐに道が見つかった。小屋に向かうときだとわかりにくいだろう。
さて、足元は登山靴の靴底は相変わらず完全に剥がれたままだ。アイゼン付ければ取れなくなるかなとも思ったけど、急に外れたりしたら怖いので止めておいた。
古い靴を持ってくるんじゃなかったなぁ
沢靴で下山をすることにする。
氷河が平らだと思ってたところが思ったよりもグサグサだったため 、沢靴の自分はぴょんとギャップを飛ぶことが出来ず苦しんだ。 大きなギャップとかが出てこなかったのでそれはよかった。
モ○ベルの沢靴は氷河で滑る。改善が待たれる。
ガスが晴れた瞬間を狙って進行方向を定める
ビーヴァンコルからはガスのせいでケルンがよく見えないことが何度かあったが、ウロウロすることなくすんなり通過。 ここは足元が沢靴だから歩きやすいというのもあったかも。
一回だけ懸垂下降をする。
もうちょっとケルン多くてもいいよなぁとか話した。結構間隔遠いんよね。
池塘ってか池もある
一気に標高を下げ、平坦になるところまで降りたあたりで雨が降ってきたが、 もうここから危険な所はないので安心だ。
奥の沢を降りてきて、トラック(登山道)に合流する
登山道に合流してすぐのところに岩小屋があった。
地形図ではもうちょっと下に岩小屋のマークがあるので探しに行くが、ない。 たぶん地図が間違っているのだろう。これが岩小屋のスコッツロックビビイのはずだと信じ、仕方なくここで幕とする。 岩小屋は意外と快適で、普通に寝られそうだ。 サンドフライがいないのもありがたい。
そんなに不快じゃなかった
明日はもう、平坦な道を歩いて、その後ボートで
下るだけ…
明日の川下りがうまくいくことを祈って、寝た。
9日目(2018年3月13日)
ゆっくり起床。
雨も止んでおり、空は晴れている。
いいラフティング日和になりそうだ。
何度か森に入ったりしながら登山道を進むと、やがて開けた平坦な道になる。
森を抜けていく
あとは平坦な道かな?
なんて平和。うーんニュージーランド。
しばしば休憩して、牧歌的な風景を楽しむ。
おひるねタイム
どんどん降りていくと、次第に沢が合流し、マツキツキ川は太くなってきた。
あれ?もうこれボートいけるんじゃないの?いきます?という雰囲気に。
やっとボートの出番だ。
ここまで9日間、この一個3.4kgのボート2艇、空気入れ、シングルパドル3本、ライフジャケット3つを運んできた。
やっと、やっと使えるんだ…
ボートが膨らむ。期待も膨らむ。
ちょっと水位が低い気もするが、流されたりしないので安心だ。
もう難所といえるものはない。あとは楽しむだけだ。
しゅっこ〜〜
二人と一人に分かれて乗り込む。
ちょっと二人の方が重そうに見えるが、無事に流れ出した。
遅くはあるが、確実に進んでいる。
とても気持ちがいい…!
ぼくたちはどこへでもいけるぞ…!
今にも沈みそうだが頑張っている
〜20分後
ボートの底に穴が空いた。
どうやら川が浅すぎたようだ。
何度かボコボコと岩に当たったら、すぐに破けた。
ダクトテープでの補修もむなしく、ボートでの下降は不可能になった。
本当にこれで川下りは終わりなのか…?
こんなの…こんなの僕たちバカみたいじゃないですか…!
なんでこんなにかさばって重いものを…
これで僕たちの20分に及ぶ川旅は、終わった。
登山道に戻り、とぼとぼと歩き始める。
あと数時間も歩けば、林道の終点であるRaspberry Flat Carparkに着く。ここは1回来たことがあって、普通に観光地みたいになっている。
そこからは未舗装林道30km+車道20kmでワナカ湖だ。
歩けんのか…?いや無理だろうなぁ…
途中でグルーミーゴルジュがある谷?の脇を通る。そういえばア○ラさんたちは今ここに入ってるのかな、なんて話ながら通り過ぎる。
記録で見たあのゴルジュと比べて、ここはとても平和だ。とてもあんなものがあるとは想像できない。
確かこの辺の谷?(連絡取ったらやっぱり入っていたみたい。後日泊まってたロッジに遊びに行った)
疲れた体をひきずり、ようやくラズベリーハットカーパークに到着した。
ここからどうするか。
歩いて帰るか、それともヒッチハイクして帰るか。
ここまで頑張って歩いてきたんだ…そんな他人に頼って終わらせていいのか…!?
とりあえずは明日考えることにして、今日はここの東屋で寝ることにする。
ラズベリーフラットカーパーク。いつも結構人が多い
10日目(2018年3月14日)
帰ろうとするカップルに声かけて自分だけ車に乗せてもらった。
足痛いわ。歩くなんて無理w
ワナカの街で下ろしてもらって、車を回収してまたラズベリーフラットに戻ってきた。
二人を拾って、ワナカに戻る。
お疲れ様でした。
すごく楽しい山でした。
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一人1冊ぐらい本を持ってきたのだが、貸してもらった「流れる星は生きている」(藤原てい著)がとても心に残っている。
満洲から命がけで帰ってきたこの人たちに比べたら、僕たちのやっていることなんてお遊びでしかない。
母は強し、だ。
とても敵わない。