山彦よ響け

山とVしかやることがない人の日記

7日目(最終日) 宮之浦川〜七五岳東稜(湯川下降)

7日目(4月25日)
やることは終わって、後は下山するだけ。
なんやかんや朝から今日の天気も最高だ。
登山道を下ってもいいけど、せっかくだから沢を下りるのがコンセプトとしていい感じだよね。
ということで、一番早く終わりそうで、まっすぐ南に降りる湯川を選択した。

 

湯川は集落に近いあたりのゴルジュの記録はあったが、この上部の記録は見つからなかった。
正直「沢を下る」、という意味が欲しいだけなので、スカ沢かな〜くらいに思っていた。

少し行って水が出てくると、意外と普通の?沢になる。
大きな滝も出てきて、遡行しても悪くないんじゃない?とも思える雰囲気だ。

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そんなに面倒くさくない巻きで進んでいけるので、意外と下りやすい。

順調に進むと沢幅も広くなってきて、宮之浦川に入渓したところぐらいの広さになってきた。うむ、巨岩もゴロゴロしておる。f:id:yamabiko222:20210707010010j:image
大きくない島だし、そんな渓相変わらないよね。

随分前に登った大川も、こんな風に巨岩がゴロゴロする沢だった。
屋久島の沢は、どこも大味で似ているなと感じてしまう。それが黒味川を下降しなくてもいいかな、と思ってしまった理由でもある。もちろん難しいというのもあるが。

 

巨岩の間をウロウロ、小滝を下るのも一苦労。やはりペースが落ちる。疲れが溜まっているので、正直早く降りたいところなのに…
もうそろそろ平和になってくるかな、と思ったところで、奥に見える沢の側壁がたってきた。

え…ゴルジュ、あるんですか…?

奥に入ると、大きめの滝があった(10数mくらい?)。
懸垂できる木もない。
ここで大高巻きはめんどくさいな〜と見ていると、ホサカが右岸の側壁近くの2mちょっとの棚を登って突破した。
よかった〜と思い後に続く。
あれ…ちょっとホールド悪くない?むずかしいんだが。
ホサカが「これ、ここガバ」と言うところに、気合のデッド。
オォって、ちょっと声出た。
これまでの全行程で一番難しかったかもしれん。言いすぎかもしれないが。

棚に乗ったらそのまま進めて、木があったので懸垂下降することができた。

よもやゴルジュがあるなんて…でも、これで後はもう平和な沢だった。

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意外と思ったペースで進まない。何度も休憩を取って進むと、ようやく終わりが見えてきた。

 

林道が沢近くに入る、堰堤の所に着いた。

まだまだ沢は続くけれど、ここから下降を続けたら車道に出るのは夜になってしまうかもしれない。
ここを終点とし、林道に合流した。いや、意外と長い沢だった。

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林道は一般車は入ってこれないらしいが、立派なコンクリートだ。なんと歩きやすいことか。
後はここを1時間ちょっと下ればバス停だ。f:id:yamabiko222:20210707010617j:image

名残惜し…くはないけど、楽しかったなぁ。同じような会話を何度もしてたと思うけど、楽しかった。

バス停に着いた。これで本当にこの山行も終了ですね。お疲れ様でした。


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せっかくなのでバスが来るまでの間に海の近くまで行って、写真をパシャリ。sea to summit to seaもこれでヨシ。


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バスが来た。

もう荷物背負って歩かなくていいんだな…

ホントに疲れたよ。

人がほとんど乗っていないバスに乗り、宮之浦港まで揺られていった。


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バスの車内で、今日は素泊まりの宿を予約した。やっぱり疲れたしね。
そしてやっぱり下山後は食事!
何食べようかな〜
肉かな?やっぱり海近いし魚かな?
さっきバスで通ったお店気になるんだよね〜
なんてことをホサカに言うと
「俺はヤクデンで酒と惣菜買って食べるわ」と返ってきた。

はぁ〜〜これだから30手前で無職のやつは…
まぁこれが、30手前でアルバイトになる僕との「差」ってやつですな。
お前も来いよ、「高み」へ。

宿を出て、ヤクデンへ向かうホサカを見送り、僕は定食屋へと歩いていった。

 

〜終

 

 

 

 

 

 

6日目 宮之浦川〜七五岳東稜(七五岳東稜トライ〜敗退)

6日目(4月24日)

結局雨は降らなかったが、朝になっても風は吹き止まなかった。

 

これは敗退だな…というような雰囲気だが、とりあえずツェルトを撤収し、可能性を信じて取り付きへと向かう。

 

アプローチとなる大凹角の上に来ると、昨日と同じ…いやそれよりも強い風が吹きつけてきた。

 

ハイ!終わりですね。

これじゃ無理ですね〜

 

登るのは無理そうだけど、せめてボルトはあるのかどうかだけは確認したく、取り付きまでは降りることに。懸垂交じりで大凹角を降りていくと、側壁にピカピカのボルトが見えた。

おぉ!ボルトがある。でもここはルートじゃないような…取り付きはもっと下のような…と言うと。

 

ホサカは「あーここが取り付きだね。あそこ登って乗っ越すんだね、じゃあ帰ろうか」とやる気を失って帰りたそうだ。

こいつ…お前は無職だしまた来ればいいやぐらいに考えているかもしれんが、俺は社会人なんだよ!(転職先はバイトです)今の会社だって2年ちょっと働いたんだ!(その前は2年ぐらいフラフラしてました)

俺の全盛期は今なんだよ!

 

ということで、

「いや、取り付きはもっと下でしょ」と、もっと降りた。

取り付きが近くなってくると、ルートと思われる壁が下降路のブッシュのすぐ隣に出てきた。

あれ、ここルートか…?と近づく。

それを見ると…ボルトが……ある!

たくさんある!ちょっとピン間遠いけど、それでも5m間隔くらいである!しかもまだまだキレイそう!

 

見えないがちょい先にボルトがある
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どうやら飯山さんの言うとおり、ボルトが「大量に」打たれたようだった。

伝説は本当だったんだ…

上の方は見えないけれど、これならたぶん頂上まで打たれていることでしょう。

 

あれ、もしかしていけるんじゃないかこれ。

命がかかっていないなら話が違う。

俄然ヤル気が出てきた。

意気揚々と下降を続け、取り付きに着いた。

見上げると、七五岳の頭までスッキリとスラブが続いていた。


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これは気持ちのいい壁だ。

この壁を見て登らないのは クライマーとしてどうなんだ(キリッ

 

「いく?いっちゃう?」

とホサカに声をかけるも、あまり乗り気ではなさそうだ。

冷静に上部を見て、バタバタと風に揺れる草木を見て可能性を感じなかったんだろう。今いる大凹角は、側壁とブッシュのおかげで風が軽減されており、僕はそのことをあまり考慮していなかった。

 

しかしここはすでに取り付き。

ベースに戻るには、大凹角を登り返すか、さらにブッシュ沿いに降りて沢を登り返すかで、どちらも面倒くさそうだ。

それなら登るか、とホサカもしぶしぶ了承してくれた。

 

いろいろあったが、トライスタートだ。

リードはクライミングシューズでフォローが沢靴のスタイル。

ジャンケンをして、自分のリードで1P目が始まった。

 

だいたい40mで5、6ピンくらいかな?5.6なので流石に楽勝だ。多少クルクル回るボルトがあるけれど、問題ない。

風がやっぱり強いな〜。

 

ホサカのフォロー

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(2ピッチ目以降は5.7です)

2ピッチ目はフォローで。

沢靴で荷物背負ってると大変だなぁ…特に足の指が。リードの方が楽まであるんじゃないか。

 

3ピッチ目、

風が強いな、ってどころじゃなくなってきた。強すぎる。登るにしたがってどんどん強くなってきた。

それにそこまで傾斜は強くないが、スラブなのでホールドは細かい。

登山大系には「長い間雨にさらされた長石のホールドは磨かれて固く〜」と書いてある。

いや、結構崩れるんですが。

雨にさらされたら風化するんじゃないんですか?意味分かんない!

 

風が強いときは動けず、風の合間を縫って3手進める、ぐらいのペースで上がっていく。多くはないが、意外とブッシュからも支点は取れた。

グレードは余裕のはずだが、必死の完登。正直もう敗退だな…と思いながらフォロービレイをした。

 

4ピッチ目、

もう敗退でもよさそうだが、2ピッチ分リードしたので、ホサカにももう1ピッチリードしてもらう。

 

登りだしてすぐ、風がさらに強くなった。ここはもう壁の横にはブッシュはなく、強風に曝される場所。右に左に煽られながらのビレイをするほどだった。

ジリジリと進むホサカ。

しかしピタッと止まったまま、動かなくなった。ホールドをつまんだまま、もう10分は動かない。

風が止む瞬間を待っているんだろう。

でも風は止まない。風速20mぐらいの風が、絶えることなく吹きつけている。

無責任に言えるなら、

「どうせ風止まないよ!早く登って!!」

と言いたい。寒いから。

しかし気持ちは痛いほどわかる。

 

結局待つのは諦めたのか、またジリジリと登りだした。そして、登りきった。

流石!スゲェぜ!

いまだにパキった中指は薬指と一緒にテーピングぐるぐる巻で、クライミングシューズを履けば足指に激痛が走る体でよくやってくれました。

 

4p目、ホサカリード
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コールがかかって、フォローとなる。ビレイ中も寒すぎて、体は冷え切っている。頑張ろう。

 

ザックが風にもっていかれるのを耐えながら、なんとか上がっていく。風は止まないくせに、ときおりかなり強くなる。そのときはホールドをつまんで耐風姿勢で耐える。落ちる…横に落ちる…上下左右に吹く風に、重心移動をして耐える。重力って下にしかかからないんじゃないの?

 

足を動かしたら風に掬われそうで動かないでいると、顔には風が吹きつけて涙が出てきた。それに寒すぎる。

僕も諦めて無理矢理進むことにした。

いつも通り、よくこんなとこリードしたなぁ〜と思いながら、なんとかホサカのもとに来た。

 

これは敗退っすね!帰りましょう!

一刻も早く!!

見ればここは結構大凹角に近く、懸垂一本で戻れそう。

捨て縄を巻いて、ホサカが先に降る。

大凹角の登り返しは、上部は下部よりも藪が多く、比較的楽に上がることができた。

さっきまでの風による寒さはもう感じない。

あっという間に地獄から帰ってくることができた。

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長居は無用。ベースまでは大凹角からそうかからない。

暖かい我が家への帰り道に、歩を進めた。

 

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実際の風の強さの参考に、4p目終了点付近で撮った動画を載せておく。

これ、ザックにそれなりに荷物入ってるいるのに、風で飛んでいきそうなんすよ…

 

ベースでスクショしたヤマテンを見ると、今日の宮之浦岳山頂の平均風速は19m /sだった。最大はこれの1,5~2倍になるらしい。

 

宮之浦岳とほとんど同じ環境だと思うし、つまりは風速30mはあったのか…?

パタゴニアとかで登る人は凄いな。

これ、クライミングする環境じゃないですよ。

 

いやあでも、安全地帯に戻ったらめちゃめちゃ笑った。

面白かったなぁ。

ヤバいですよ、あの風は。

 

 

ちなみに、これの3日後に屋久島フリーウェイに行きますが、七五岳東稜と比べると藪がうるさかったです。

七五岳東稜はグレードはお手軽だしスッキリとスラブを登っていける、皆にオススメのルートでした。

 

飯山さんのブログには

“東稜の正式名は福岡GCCルート。

昭和50年に初登。

その記録によると9ピッチ295m、Ⅵ級。微妙なフリクションライミングの連続。6ピッチ目のビレイポイント用に1本だけリングボルトを打つ“

とあった。

おそらく登山靴で、ロープは繋がってるけどお互いフリーソロみたいな状態?

頭おかしいっすね。凄すぎます。

 

5日目 宮之浦川〜七五岳東稜(停滞)

5日目(4月23日)
結局風の轟音は一晩中聞こえていた。
起きるとほんのりパラパラと雨が降っている。
今日は停滞だ。安心して二度寝を貪った。

少しして、今度は完全に起きた。雨は朝に降った程度で既に止んでいる。
ホントは、今日こそ偵察にいかなければなのだが、体がバキバキでやる気が出ない。8日分の食糧を持って宮之浦川登って縦走したのだから、そりゃ筋肉痛にもなるだろう。

 

水場
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一度だらけきったカラダに活を入れるのは難しく、散歩する気もなかなかおきない。
偵察する気はないけれど、烏帽子岳という、ベースから20分程度で登れる山頂に行こう、ということもなんとなく話していた。これも行くのが昼過ぎになってしまった。
幸いなことにここの山頂では電波が入った。
明日の天気をヤマテンやscwで見ると、雨雲はたぶんかからない…が、台風は依然として沖縄に留まっており、今日と状況はあまり変わらなそう。
それに少し先だが、5日後の28日からずっと天気は悪そうだ。逆算するとフリーウェイを27日に、そして26日をレスト日と移動に、と考えると、明後日25日には下山したいところ。予備日はもう使えない、というか使いたくない。
そしてこのタイミングで、下降に2日以上はかかる(と思われる)黒味川下降はなくなった。

 

烏帽子岳から
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夜になり、さてここからは話し合い。
ホサカはフリーウェイを諦めてでも七五岳東稜を登りたそうだ。
だが僕は?僕はフリーウェイの方がいい。安全だし、結局待っても天候が回復しないと東稜は登れない。

それにもう停滞に飽きたのだ。持ってきた文庫版俺は沢ヤだ!は読み切っちゃったし、モバイルバッテリーの電池はなくなりスマホの電池も残り少ないんだ。もうkindleで本を読んでいられないんだよ。もう残った娯楽はホサカの持ってきたラジオしかないんだよ。

それに正直、夜が寒くてもう嫌なのだ。いくら南の島屋久島とはいえ、4月にエスケープヴィヴィじゃ寒いんだよ!

何が決めてになったのかはわからないが、とりあえず明日がラストチャンス、天気がダメだったら諦めよう、ということになった。

このときどんな気持ちで寝ただろう。もしかしたらいけるんじゃ…いややっぱり命はかけたくない。そんな不安だろうか。

依然として風はビュービューと鳴り止まず、夜は更けていった。

 

 

3~4日目 宮之浦川〜七五岳東稜(宮之浦川から七五岳ベースまで)

3日目(4月21日)

今日は宮之浦岳まで詰めて、稜線にある岩小屋に泊まる予定だ。

ちょっと寒いので、昨日と同じ7時に行動開始する。

 

漏斗の滝は大きく巻く。右岸にある沢形に入り、大きめな沢形を選んで進んでいくと、広いコルに出る。水があればここに泊まってもよさそうだ。

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巻けるところまで巻いちゃおうと高巻いていくと、急峻な側壁に阻まれるので、沢に降りた。降りた先にもこれまた登れない滝、また右岸から巻く。

 

巨岩はどこまでも
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巻いたり巨岩を縫うようにして進んでいくと、F28が現れた。
ボルトにアブミをかけて越える。ボルトも比較的ピカピカで、そんな高過ぎる位置でもないのでありがたかった。

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まだまだ基本高巻きで進んでいくと、上部ゴルジュが見えた

。記録では左右どちらからも巻いていたと思う。上部ゴルジュ手前までは右岸を巻いてきたので、せっかくなので左岸から巻き始めた。

 

上部ゴルジュ入口(たしか)
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気軽に選んだが、最初の部分が悪かった。安全のため、ホサカにロープをひいていってもらった。荷物が軽かったらなんてことはないかもしれんけど…
ある程度高度をあげたら、あとは藪漕ぎのような巻きをこなすだけだ。ヤブが濃いので右岸巻きが正解だったかなぁ、とも思ったけど、どっちも大変だろうかも。

 

15m滝が見えたところで、巻きを終えて沢に戻った。
ここまでくると沢の景観もかなり落ち着き、登れる滝が続く快適な遡行となる。

 

来た沢を振り返って
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景色を楽しみながら進んでいくと、ヌメヌメのスラブが出てきて、やがて水が枯れた。結構、標高高いところまで水があるんだね。

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なるべく沢形が残ってて、藪が少なそうなところを選ぶ…けどやっぱり藪はあった。
20分ぐらいの藪こぎをして、登山道にぶつかった。お疲れ様でした。

 

いい天気だけど、風が強い。
とりあえず宮之浦岳山頂まで移動する。
時刻は17:20、宮之浦岳山頂着。

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…いや、風が強い。
雨具を着ていても寒すぎる。

ここで久しぶりに電波が入ったので、頑張って天気予報などを確認する。もっとスマホいじりしたいけど手がガタガタ震える…

時間もないし寒いので、すぐに七五岳への縦走に入った。
18時半ぐらいになると日も沈んできた…夕暮れが綺麗だなぁ。
なんか疲れちゃったし、水場があるあたりで本日の行動を終了することにした。
標高はそんなに高くないけど、久しぶりの稜線泊。星が綺麗で気持ちよかった。

 

 

4日目(4月22日)
今日の目的は、湯泊歩道の七五岳への分岐のところがベースによいらしいので、そこまで行って、可能ならば七五岳東稜の偵察だ。
いつものようにゆっくりと、8時に行動開始。

今日も太陽はぎらぎらと輝いていて、朝はいいけど、昼は暑くて大変そうだ。f:id:yamabiko222:20210703225729j:image
最初はいわゆる普通の縦走という感じ。途中、黒味岳に寄り道する。

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山頂から目指すべき七五岳が見える。意外と遠いな…というのと、めっちゃ傾斜たってない?と思った。あれを登るのか…登れるのか?
見えてた斜面が登るルートじゃないことを祈りつつ、縦走に戻った。

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※見えていたのが登るルートでした
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花之江河まで降りて、ここから湯泊歩道に入る。
一般ルートではないためか、入口には柵があった。
どれだけ悪い道なのかと身構えたが、そんなに悪くはなかった。
ただ「山」というより「森」といったよう。規則性もなく、アップダウンも関係ないので、赤テープがなかったらまともに辿れないような道だった。

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思ったより遅くなってしまったけど、七五岳への分岐についた。平なスペースがあって、寝るのはよさそう。少し近くにチョロチョロだけど水も流れている。快適なベースになるといいけれど。

 

ツェルト張った七五岳ベース
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ひとまず荷物をおいて、七五岳の山頂に向かった。

一本道の尾根と思いきや、意外と道がわかりにくかった。赤テープを辿る。
アップダウンをこなしていると、風の轟音がとても大きくなってきた。嫌な予感しかないな。
山頂に近づくと、昨日ぐらいの、いやそれより強い風を感じられた。これはたまらん。

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ここで電波が入ったので、風をしのげるところに移動して天気予報を見る。
なるほど、沖縄で発生した台風の影響で、風が強いらしい。
明日の天気は雨が降るか降らないか、五分五分といったところか…

山頂直下からはヤブまじりのような急登なので、あまり風があたらなくてよかった。けれど山頂はのっぺりとした岩以外何も存在しない。もちろん強風直撃だ。


飯山さんが開拓した新ハードルートである「影の山」の終了点とかを近くで見たいが、風が強すぎてまともに立っていられない。岩のへりに近づいたら持ってかれてしまいそうなので、キョロキョロと景色を見たらそそくさと降りた。


この風の強さでスラブ登攀…?ムリじゃね…?
とりあえず東稜のアプローチであるという大凹角まで戻る。なるほどたしかに大凹角。実物を見ると、わかりやすくて助かった。

 

大凹角
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ここを降りて取り付きまで偵察したいけど、時間がない。今から2、300m降って登り返すのは大変そうだ。
それに明日もこの風じゃねぇ…
ということで、偵察のことは後で考えるとして、ベースに戻った。

 

ここのベースは風の音はビュービューするけれど、ツェルト内では風に苛まれることはない。ツェルト優秀。
おかげでルートのことを集中して悩むことができる。
正直、風がヤバいくらい吹いていることは、いい敗退の理由ができた、ぐらいに思っている自分がいた。


何度も考えるけれど、280mに腐っているかわからないピンが10本だけは怖すぎる。あ、ちなみにジャンピングは持ってきていない。数本のリングボルトを持ってきても、この長さだったら焼け石に水だと思ったから。
ホサカはピンが少なくても、風が弱ければ行きたそうだ。心が強いなぁ。俺は別に、屋久島フリーウェイが登れればそれでよいのに…

命をかける登攀はしたくない。

明日は、もし雨が降っていたら停滞として、明後日に東稜を登ることを決めて、眠りについた。


起きて、天気も良くて風がない、ナイスコンディションだったらどうしよう…

 

今、この緑のとこまで来ました

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縦走中のヤクシカ

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1~2日目 宮之浦川〜七五岳東稜(宮之浦川1,2日目)

1日目(4月19日)
山行初日の朝。だけど今日はゆっくりだ。

山に持っていかない荷物を、 8時に開く観光センターに預けなければいけない。


東屋は車道に面しているのでそれなりに早く起き、 パッキングを終わらせる。観光センターの前で開くのを待とうと、 とりあえず向かった。
しかし8時になっても、一向に観光センターが開く様子がない。


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よく見ると、開店が9時と書いてある。
…コロナの影響で遅くなったのか?
さらに出発が遅くなってしまった。
まぁ気を取り直して、林道までのタクシーを予約しようとする。
しかし、ダメ…!どこも団体客だったりで朝は出せないようだった。
コロナの影響はどうした。
何でもない平日の朝っすよ?予約しなくてもいけると思うじゃん?

 

結局、1時間ちょっとプラスになってしまうが、 歩くことになった。sea to summitで宮之浦川宮之浦岳といきますか。 もう海から歩いていない人は宮之浦川遡行したと認めません。

 

林道までの道から
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荷物を預けて出発し、林道へ。順調に進んでいく。
しかしこの林道、マジで長い。それに荷物がクソ重い。 これから先何度も言うだろうけどホントに重い。 8日分の食糧は伊達じゃない。


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ヒーヒー言いながら進み、入渓したのは14時前だった。 やっと沢登りが始まるのか…長かった…


水がキレイな沢だ。大きい岩がゴロゴロしていて、 昔来た屋久島の沢のイメージから変わっていない。

この大岩を縫うように、ウロウロと彷徨って進んでいくだな… 骨が折れそうだ。
疲れる山行になることを覚悟し、気合を入れた。

 

入渓点
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気合を入れた1時間半後、とりあえず今日はこの辺で… と幕とすることにした。
なんか疲れちゃったしね。 それに先に進んだらいいところあるかわからないし…


広く平らな寝場所と豊富な薪、 幸せな一夜を過ごすことができそうだ。


ここでスクショした宮之浦川の記録と、 七五岳東稜の記録をしっかり読んだ。
このときはまだ宮之浦川核心の2日目が控えていたので、 あまり七五岳東稜のことを考えることなく、 気楽に過ごすことができた。

 


2日目(4月20日
一日経っただけだと、荷物が全然軽くならない。

どれだけペースが遅くなるかわからないけど、まぁいけるところまでいきますか、ぐらいの空気で出発する。


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少し進むとマンべー淵につく。
なるほどたしかに、側壁がたった凄いゴルジュだ。増水したら逃げ場がなさそう。


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さらに進んで第3巨岩。右岸を登る。出だしの残置ハーケンにスリングで立ち込み、あとはキャメロット#1とかを使ったカムエイドを交えて登っていく。滑りそうで怖いけど、難しいわけではない。
残置無視?どうせ後でボルト使うだろうしね…別にいいです。

 

第3巨岩(たしか)

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巨岩がめんどくさいが順調に進むと、竜王の滝があらわれる。

 

竜王の滝
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「お、キレイだね」
「うん」
と感動を分かちあい、大休止。

記録を見ると、左から越えるようなので右岸を偵察する。
ちょっとわかりづらいけど、こっちかなぁ、というようなチムニーを登っていく。
ここの1ピッチ目が宮之浦川で一番難しかった。
とはいっても、カムがたくさん入るので支点も取れるしエイドもできる。

2ピッチ目は木登り交じりで上がるだけ。
登り切るといい休憩場所があった。

竜王の滝の先の滝もまとめて巻き、4,5時間かけて沢床に戻ってきて、漏斗の滝まで進んだ。
滝近くではいいテン場がないので、少し手前に戻って幕とした。


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意外と遅れていないなぁ、とほっとする。明日には宮之浦岳に行けそうだ。

テン場にこだわる僕はもっとサイコーな場所がほしかったが、充分平で薪は豊富。今日もいい一夜になりそうだ。

 

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夜、宮之浦川が無事に終わりそうなことがわかると、今度は七五岳東稜が怖くなってきた。
ホントにいけるのか?初日の夜と今日で、もう何回も黒稜会の記録と飯山さんのブログを読んだ。
ブログによると、「近年、ラペルボルトが大量に打ちたされて〜」とあった。
2015年の近年って、いつだ?ラペルボルトって、なんだ。終了点ってことじゃないよね?大量って、どれぐらいのこと?1ピッチに2本とかじゃ大量じゃないよね?

全クライマーにオススメするルートって書いてあるけど、そんなプアプロのルートをオススメとかはしないよね?そうだよね!?

と、可能な限り情報を読み取ろうと必死だった。
正直5.8程度だとしても、黒稜会の記録通り、ボルトが2,30mに1本が280m、だったら登りたくない。怖すぎる。綺麗なスラブだったら支点取れないでしょう?

ずっとホサカにどうする?いく?俺はやめてぇなぁと言っていた。心の弱さが出てしまうなぁ。僕はこういうことを出来ないクライマーなんだなぁ、と寂しくもなった。

最終的には嫌気がさしたのか、「そうなったら俺が全部リードするよ」とホサカは言った。

マジ?助かるわ〜〜〜
クライマーのプライドだとかはどうでもよかった。まぁ登れそうなら頑張っちゃおうかなって感じで、ひとまずは安心して寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮之浦川〜七五岳東稜(出発まで)


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転職をすることになった

ということは有給消化が出来るということ。
普通に働いていたら手に入らない、長期休みを得ることができた。

いまは3月中旬、旅の始まりは、4月の下旬になりそうだ。

せっかくだからながーく遊びに行きたい…と、いつものように無職のホサカに声をかけた。

4月下旬は空いてる?と聞くと、「4月はまだ何もない」と返ってきた。

いや、強すぎる。
何もないって、ホントに何の予定もないの?
いろんな未来を生贄に捧げ、僕がこの休みを錬成するのがどれだけ大変だと…それを当たり前のように…

まぁパートナーは見つかった。
予定を合わせるのも余裕そう。
ホントは海外に行きたかったけど、この情勢だと無理そうだ。

暇だったらどっか行こうと誘ったら、
屋久島に行きたいと言ってきた。
確かにこの時期に泊まりで沢に行けるのは屋久島とか沖縄とか、とにかく南だな。
二つ返事でオーケーする。
まぁ遠くだったらどこでもいいし。

沢も登りたいし、クライミングもしたい。どちらの欲も叶えられそうな、屋久島はいいチョイスだ。



せっかくだから有名なところは行きたいので、宮之浦川屋久島フリーウェイは行きたいね〜という話になった。
フリーウェイに行くなら、スラブの練習しないとなぁということで、とりあえず二人で小川山で練習する予定を立てた。


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数日後、ホサカから中指をパキったと連絡が入った。
マジかよ~
大丈夫すか?

それに聞けば少し前に足の小指を凍傷一歩手前のしもやけになったようで、靴を履くと常に痛いらしい。

大丈夫すか?

まぁ、ホサカくんは強いし、いいハンデかな…

小川山の練習当日は、特にまぁ楽しく終わった。スラブの10cを2本と11aが1本登れた。長めの10cをオンサイトしたときは自分は天才かと思った。
スラブはむずいからね!
マラ岩の10cのスラブは、何度やっても登れてないんでw
今回も登れない10aがあったけど…まぁ、問題はないはず……不安だなあ

11aのノイズ
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沢の準備は何もしていないけど、そもそも予定もまだまともに決まっていない。
とりあえず1週間ぐらい山に入って、それの前後どっちかにフリーウェイやりたいね、とは決まった。
だけど退職前の勤務は引継ぎ等で忙しく、全然予定を考える気にならない。
そもそも屋久島は狭すぎて、遡下降で1本のラインをひこうとするとすぐに登山道に出たり、町に降りてしまったりする。うまい具合に気持ちのいいラインをひけないのだ。
とりあえず時間をたくさん使うために、沢にクライミングも混ぜたいね、という話はしてた。

そんな感じで日々は過ぎ、出発2日前、ホサカから「宮之浦川登った後、七五岳東稜登って黒味川を下降しない?」とラインが来た。

七五岳東稜?よくわからないけど、めんどくさいから屋久島に向かう途中で考えるか。
「見てみる」「(クライミングシューズは)1足欲しいね」と送って、早々にラインを切り上げて寝た。
……もっとよく考えるべきだったなぁ

[0日目]4月18日
ついに屋久島への出発日、羽田から鹿児島に飛行機で飛び、そこから高速船で屋久島だ。
やらなきゃいけないことは、鹿児島での僕の行動食、食当分の飯、それにガス缶の購入だ。時間はたっぷりとってある。

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まずはガス缶の購入、とあたりをつけていた鹿児島駅周辺の店には、どこにも置いていなかった…しかたないので暇なホサカに天文館モンベルまで歩いてもらう。というか気づいたらもうそっちに行ってた。
僕は駅前のスーパーでお買い物。
けっこう山に行ってるつもりだけど、自分が1日どれだけ食うのか、いまだにわからねえんだよなあ。1人4日分の食当と、8日分の行動食を買わなきゃいけないのだが、どうするか。

とりあえず食当分としてインスタントラーメンとパスタを買って、あとはおいしそうなお菓子をたくさん買った。
なんか行動食、量が凄い多い気がするけれど…お腹すいたら、さびしいしね。

夕方、鹿児島から船に乗り、屋久島に着いたのはもう夜だった。
宮之浦港周辺で寝ようとしたが、ここはちょっと、暗すぎる。夜の海はなんか怖い。
「ちょっと散歩がてら周り見てくる」とホサカを残し、いい寝る場所がないかあたりを見てくることにした。まばらな街灯を追い、蛾のようにフラフラと明かりがある方を目指していくと、スーパーがあった。
そう、「南のエデン」こと、ヤクデンだ。時刻は20時過ぎ。まさかこんな所に営業しているスーパーがあるとは…うれしい驚きだった。これで温かい晩飯を食べることが出来る。
ホサカに連絡するのもさておき、ウキウキで入店。チューハイに九州限定のポテチ、それに惣菜にカップ麺を持ってレジに向かっているとき、自動ドアが開いてホサカが入ってきた。
お前もヤクデンに吸い寄せられたか…
「なんかスーパーあったわ」と今さらなことを言い、二人とも晩飯を買ってヤクデンを後にする。
そういえばヤクデンに来る途中に東屋があったので、今日はそこで飯を食って寝ることにした。

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やっぱり温かい飯はいいなぁと落ち着いていると、思い出した。明日の朝から行動開始だけど、いまだにまともな計画を立てていない。計画書書いてコンパス出さなきゃいけないんだった。

移動するときに書くはずだったが、なんか寝て気づいたら屋久島だった。
急いで記録を見て、宮之浦川~七五岳東稜~黒味川下降の日にちを計算すると、
6泊7日、予備日を1日設けての7,8日間の山行になるようだった。おお、ちゃんと8日ぐらいになってていい感じだ。まぁすべて順調にいったらだけど。
というか沢はいいんだけど、この七五岳東稜、こいつがヤバくないですか。一番詳しそうな黒稜会のネットの解説を見ると、7ピッチ280mのスラブ壁で、難しくても5.8。だけどボルト数が10本しかない。280mで10本ですか!?スラブなんですよね!?それにかなり古い記録だけどボルトいきてんのかな…

(黒稜会の記録)
http://kokuryoukai.sakura.ne.jp/2-5-8-2.html


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結局資料は登山大系、屋久島の山岳、黒稜会のページ、それに飯山健治さんがフリーソロしたことを書いたブログしかなかった。とにかく黒稜会と飯山さんのページをスクショしまくり、なんとかなることを祈って眠りについた。

『容疑者Xの献身』と雪山

容疑者Xの献身』を初めて見た。

面白い作品だとは聞いていたが、まぁいつか見ようと思って放置していた。なにかきっかけがあったわけではないが、久しぶりに邦画を観たいと思ったので、観てみた。

これが、実に、実に面白い。僕はガリレオシリーズのドラマも一本も観ていない。唯一知っているのは湯川という男が主人公で科学者だか物理学者である、ということぐらいだ。

そんな僕でもこの作品は気後れする必要はない。なぜならこの作品の面白さの肝はほぼ石神というキャラクターであるからだ。

僕は石神のような自己犠牲を払うキャラクターが大好きだ。石神の行動で、映画を観ていたのが鈍行の電車内だというのに二度もボロボロと泣いてしまった。

無償の愛。悲壮感のない自己犠牲。なんて美しいのだ。

 

ここでは、雪山のシーンについて書きたい。

雪山のシーン、石神の趣味が登山だというのは実写オリジナルだそう。それもあってか、「謎登山」や「雪山のシーンはいらない」などの意見を多く見る。

しかし僕はこのシーンが好きだ。

理由は2つある。一つは物語の展開としての面白さとして、もう一つは石神というキャラクターの表現のためだ。

雪山の前のシーンで、石神は花岡靖子と工藤に対して脅迫じみた手紙を送っている。僕はそれを見て、もしや石神は本当はサイコパスなのか?ここは雪山、遭難した湯川を置き去りにしても罪には問われない…と思いながら、ドキドキしていた。しかし石神は湯川を助けた。石神は湯川との友情を持っているし、愛のためならなんでもするサイコパスではないことがわかった。この点、良いミスリードだったと思う。

 

そしてもう一つの点。石神は雪山に登り、「美しい…今のぼくの人生は充実してる…この景色を、美しいと感じることができる」と言った。

僕はこう思っている。山は人を救うわけじゃない。しかし山に登ることで、人は豊かになれる。

石神は登山を知っていた人間だった。それでも彼は人生に絶望し、死を選ぼうとしてしまった。そこに花岡靖子と美里が現れた。最初は何を思ったのだろうか。仲睦まじい花岡親子を見て、心が洗われるような気持ちになったのだろうか。そしてそこから、花岡靖子に恋をしていく…

石神は、自殺をしようと思っていた時は山を見ても美しいと感じることは出来なくなっていたのだろう。感受性を失ってしまっていたのだ。

しかし恋をすることで、また、山を美しいと思える豊かさを取り戻した。

石神はこの時点で無関係な人間を殺している。罪悪感がまったくなかったわけではないだろう。それでも、心から自分の人生は充実していると言ったのだ。

それほどの恋をした石神。人生の素晴らしさを知った石神。

 

羨ましいぞ。