山彦よ響け

山とVしかやることがない人の日記

6日目 宮之浦川〜七五岳東稜(七五岳東稜トライ〜敗退)

6日目(4月24日)

結局雨は降らなかったが、朝になっても風は吹き止まなかった。

 

これは敗退だな…というような雰囲気だが、とりあえずツェルトを撤収し、可能性を信じて取り付きへと向かう。

 

アプローチとなる大凹角の上に来ると、昨日と同じ…いやそれよりも強い風が吹きつけてきた。

 

ハイ!終わりですね。

これじゃ無理ですね〜

 

登るのは無理そうだけど、せめてボルトはあるのかどうかだけは確認したく、取り付きまでは降りることに。懸垂交じりで大凹角を降りていくと、側壁にピカピカのボルトが見えた。

おぉ!ボルトがある。でもここはルートじゃないような…取り付きはもっと下のような…と言うと。

 

ホサカは「あーここが取り付きだね。あそこ登って乗っ越すんだね、じゃあ帰ろうか」とやる気を失って帰りたそうだ。

こいつ…お前は無職だしまた来ればいいやぐらいに考えているかもしれんが、俺は社会人なんだよ!(転職先はバイトです)今の会社だって2年ちょっと働いたんだ!(その前は2年ぐらいフラフラしてました)

俺の全盛期は今なんだよ!

 

ということで、

「いや、取り付きはもっと下でしょ」と、もっと降りた。

取り付きが近くなってくると、ルートと思われる壁が下降路のブッシュのすぐ隣に出てきた。

あれ、ここルートか…?と近づく。

それを見ると…ボルトが……ある!

たくさんある!ちょっとピン間遠いけど、それでも5m間隔くらいである!しかもまだまだキレイそう!

 

見えないがちょい先にボルトがある
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どうやら飯山さんの言うとおり、ボルトが「大量に」打たれたようだった。

伝説は本当だったんだ…

上の方は見えないけれど、これならたぶん頂上まで打たれていることでしょう。

 

あれ、もしかしていけるんじゃないかこれ。

命がかかっていないなら話が違う。

俄然ヤル気が出てきた。

意気揚々と下降を続け、取り付きに着いた。

見上げると、七五岳の頭までスッキリとスラブが続いていた。


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これは気持ちのいい壁だ。

この壁を見て登らないのは クライマーとしてどうなんだ(キリッ

 

「いく?いっちゃう?」

とホサカに声をかけるも、あまり乗り気ではなさそうだ。

冷静に上部を見て、バタバタと風に揺れる草木を見て可能性を感じなかったんだろう。今いる大凹角は、側壁とブッシュのおかげで風が軽減されており、僕はそのことをあまり考慮していなかった。

 

しかしここはすでに取り付き。

ベースに戻るには、大凹角を登り返すか、さらにブッシュ沿いに降りて沢を登り返すかで、どちらも面倒くさそうだ。

それなら登るか、とホサカもしぶしぶ了承してくれた。

 

いろいろあったが、トライスタートだ。

リードはクライミングシューズでフォローが沢靴のスタイル。

ジャンケンをして、自分のリードで1P目が始まった。

 

だいたい40mで5、6ピンくらいかな?5.6なので流石に楽勝だ。多少クルクル回るボルトがあるけれど、問題ない。

風がやっぱり強いな〜。

 

ホサカのフォロー

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(2ピッチ目以降は5.7です)

2ピッチ目はフォローで。

沢靴で荷物背負ってると大変だなぁ…特に足の指が。リードの方が楽まであるんじゃないか。

 

3ピッチ目、

風が強いな、ってどころじゃなくなってきた。強すぎる。登るにしたがってどんどん強くなってきた。

それにそこまで傾斜は強くないが、スラブなのでホールドは細かい。

登山大系には「長い間雨にさらされた長石のホールドは磨かれて固く〜」と書いてある。

いや、結構崩れるんですが。

雨にさらされたら風化するんじゃないんですか?意味分かんない!

 

風が強いときは動けず、風の合間を縫って3手進める、ぐらいのペースで上がっていく。多くはないが、意外とブッシュからも支点は取れた。

グレードは余裕のはずだが、必死の完登。正直もう敗退だな…と思いながらフォロービレイをした。

 

4ピッチ目、

もう敗退でもよさそうだが、2ピッチ分リードしたので、ホサカにももう1ピッチリードしてもらう。

 

登りだしてすぐ、風がさらに強くなった。ここはもう壁の横にはブッシュはなく、強風に曝される場所。右に左に煽られながらのビレイをするほどだった。

ジリジリと進むホサカ。

しかしピタッと止まったまま、動かなくなった。ホールドをつまんだまま、もう10分は動かない。

風が止む瞬間を待っているんだろう。

でも風は止まない。風速20mぐらいの風が、絶えることなく吹きつけている。

無責任に言えるなら、

「どうせ風止まないよ!早く登って!!」

と言いたい。寒いから。

しかし気持ちは痛いほどわかる。

 

結局待つのは諦めたのか、またジリジリと登りだした。そして、登りきった。

流石!スゲェぜ!

いまだにパキった中指は薬指と一緒にテーピングぐるぐる巻で、クライミングシューズを履けば足指に激痛が走る体でよくやってくれました。

 

4p目、ホサカリード
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コールがかかって、フォローとなる。ビレイ中も寒すぎて、体は冷え切っている。頑張ろう。

 

ザックが風にもっていかれるのを耐えながら、なんとか上がっていく。風は止まないくせに、ときおりかなり強くなる。そのときはホールドをつまんで耐風姿勢で耐える。落ちる…横に落ちる…上下左右に吹く風に、重心移動をして耐える。重力って下にしかかからないんじゃないの?

 

足を動かしたら風に掬われそうで動かないでいると、顔には風が吹きつけて涙が出てきた。それに寒すぎる。

僕も諦めて無理矢理進むことにした。

いつも通り、よくこんなとこリードしたなぁ〜と思いながら、なんとかホサカのもとに来た。

 

これは敗退っすね!帰りましょう!

一刻も早く!!

見ればここは結構大凹角に近く、懸垂一本で戻れそう。

捨て縄を巻いて、ホサカが先に降る。

大凹角の登り返しは、上部は下部よりも藪が多く、比較的楽に上がることができた。

さっきまでの風による寒さはもう感じない。

あっという間に地獄から帰ってくることができた。

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長居は無用。ベースまでは大凹角からそうかからない。

暖かい我が家への帰り道に、歩を進めた。

 

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実際の風の強さの参考に、4p目終了点付近で撮った動画を載せておく。

これ、ザックにそれなりに荷物入ってるいるのに、風で飛んでいきそうなんすよ…

 

ベースでスクショしたヤマテンを見ると、今日の宮之浦岳山頂の平均風速は19m /sだった。最大はこれの1,5~2倍になるらしい。

 

宮之浦岳とほとんど同じ環境だと思うし、つまりは風速30mはあったのか…?

パタゴニアとかで登る人は凄いな。

これ、クライミングする環境じゃないですよ。

 

いやあでも、安全地帯に戻ったらめちゃめちゃ笑った。

面白かったなぁ。

ヤバいですよ、あの風は。

 

 

ちなみに、これの3日後に屋久島フリーウェイに行きますが、七五岳東稜と比べると藪がうるさかったです。

七五岳東稜はグレードはお手軽だしスッキリとスラブを登っていける、皆にオススメのルートでした。

 

飯山さんのブログには

“東稜の正式名は福岡GCCルート。

昭和50年に初登。

その記録によると9ピッチ295m、Ⅵ級。微妙なフリクションライミングの連続。6ピッチ目のビレイポイント用に1本だけリングボルトを打つ“

とあった。

おそらく登山靴で、ロープは繋がってるけどお互いフリーソロみたいな状態?

頭おかしいっすね。凄すぎます。